禁煙する喫煙者「4つのタイプ」あなたはどれ?

 尊敬する医師とタバコ談義をしているとき、筆者はこう言われたことがあります。

「タバコの恐ろしさはね、タバコが原因で深刻な病気になった患者本人か、そうした悲惨な患者をたくさん診てきた医師にしか、本当のところはわからないんじゃないかな」
石田雅彦 2025.09.21
誰でも

 いちいちリンクは張りませんが、タバコが原因で深刻な病気になった方々の声は、例えばYouTubeで「COPD」とでも検索すればインタビュー動画がたくさんアップされています。喫煙者に対して最も有効で説得力のあるアドバイスができるのは、やはりこうした事例を間近で見てきた医師です。

 定期的な健康診断の際などで医師は、禁煙するつもりのない喫煙者にもアドバイスできる可能性があります。また、医師や薬剤師などの医療従事者のアドバイスがあるとないとでは、禁煙する割合がはっきり増えることがわかっています(※1)。

 一方、喫煙者の家族の存在も重要です。喫煙者の父親とタバコを吸わない母親、そして子どもがいる家庭では、母親からの禁煙支援や家族を含めたカウンセリングが有効だというランダム化比較試験(RCT)もあります(※2)。

 香港で行われたこの研究では、1158家族に対して対面式の「家族カウンセリングセッション(family counseling session、FCS)」などを用い、母親の支援といった介入群と比較しました。すると7日間の禁煙で5.7%、6ヵ月間の禁煙で5.9%、それぞれ禁煙成功率が上がったということです。また、家族カウンセリングセッションで父親の自発的な禁煙意欲が増加し、母親の支援や父親への禁煙サポートでもそれぞれ効果があったようです。

喫煙者への4つの問いかけ

 医師、家族や身近な存在、そのどちらも禁煙サポートには重要でしょう。「リセット禁煙」という心理的なアプローチで禁煙サポートをしている磯村毅医師は、まず4つの質問をしつつ、喫煙者の持つ「禁煙したい」という気持ちを引き出していくといいます。これは「なぜタバコを吸うのか」「自分の意志でタバコを吸っているのか」「タバコが美味しく感じるのはいつか」「タバコを吸うメリットは何か」という4つの問いかけからなります。

 まず「なぜタバコを吸うのか」という問いに喫煙者は「なんとなく」とか「習慣になっている」などと答えます。ですが、喫煙はニコチンという薬物による依存症です。タバコを吸うのは習慣のせいだけではないことを理解してもらうためには、「では、健康に害があることがわかれば、その習慣をやめることができるか」と問いかけてみます。

 次に「自分の意志でタバコを吸っているか」という質問には、知らず知らずのうちに吸っているという回答が多く出ます。たとえば、トイレに行く行動と比べてみた場合、自分で「トイレに行こう」と思ってから行きます。ですが、喫煙は「何かのチカラ」によって自分の意志とは別の何か(ニコチン)のせいで吸っているということを自覚してもらいます。

 喫煙者は「タバコが美味しいときは」と聞かれると、食後や仕事の合間、朝起きたてすぐなどと答えます。食後のタバコのために食事をしているというようなことはないか、タバコを吸う前はそうしたことはなかったのではないか、ということを話してみます。どうしてそういう状態になったのかといえばニコチンの依存症になっているからですが、自分の状態についてかえりみてもらうのも重要です。

 さらに「タバコを吸うメリット」について質問する場合、メリットとデメリットも同時に答えてもらいます。リラックスできるなどのメリットの多くは、ニコチンの作用によるものです。デメリットは健康への害毒ですが、医学的なエビデンスで知識を補ってみてもいいでしょう。

禁煙成功者の4タイプ

 ところで、禁煙成功者へのインタビュー調査で禁煙者の類型を探るという内容の研究論文があります(※3)。過去6ヶ月から24ヶ月以内に禁煙に成功した37人のオーストラリア人(24歳から68歳、男性15人、女性22人)を対象に、質的な統計調査(数で表せない非定量的疫学調査)を行ったといいます。

 これで何を調べたかったのかというと、喫煙者が禁煙する際、衝動的、突発的にするのか、それとも準備周到に少しずつ実行に移していくのかという傾向、禁煙の精神的な努力の有無、さらに禁煙するきっかけの影響についてです。

 禁煙サポートや禁煙治療では、患者の性格や症状、環境などによって治療計画を入念に施すのが良いとされてきましたが、臨床の現場では禁煙者の半数以上が突然、何も準備せずに禁煙できているのも事実です。どちらが良いか探る意味合いもありますが、この論文の目的は禁煙成功者の事例から今後の禁煙サポートの知見にすることもあります。また、インタビューには「グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach、GTA)」を使いました(※4)。

 調査の結果、禁煙者には大きく4つのタイプがいることがわかりました(うち一つは類推です)。

 まず「慎重型」。何度も禁煙にチャレンジした体験がある人が多く、周到に準備をしてからおもむろに禁煙にとりかかり、行きつ戻りつしつつタバコを遠ざけます。

 次に「一気呵成型」。きっかけ次第で勢いで禁煙するタイプです。禁煙を考えたり準備をしていても実行に移せなかったが、何かのチャンスを利用してタバコをやめることができた人たちになります。

 それまでタバコをやめることは毛頭考えていなかったにもかかわらず、病気をするなど人生の一大転機でいきなり禁煙する人もいました。これは「突発型」であまり多くはありません。

 この論文の調査対象にはいませんでしたが、ほかの研究などから「自然消滅型」の可能性が示唆されました。ごく少数派ですが、いつの間にか吸わなくなっていた気楽なタイプということになるでしょう。

図作成筆者(いらすとやの素材使用)

図作成筆者(いらすとやの素材使用)

 いずれにせよ、禁煙の準備をまったくしなかった禁煙成功者はほとんどいませんでした。やはり、何らかの準備が必要ということになりますが、喫煙者によってその準備も多種多様でしょう。

 これまでの禁煙サポートモデルでは、禁煙希望者のほとんどは「慎重型」と考えられてきました。こうして類型分けすることで、4タイプのそれぞれの喫煙者に対するきめ細かいサポート方法が開発されるかもしれません。

 さて、あなたはどのタイプでしょうか。また、あなたの身近にいる喫煙者は慎重型でしょうか。

***

※1:M C Fiore, et al., ”Treating Tobacco Use and Dependence.” Evidence-Based Practices for Substance Use Disorders, 2000(2008年に更新)

※2:S S C Chan, et al., "Family-Based Smoking Cessation Intervention for Smoking Fathers and Nonsmoking Mothers with a Child: A Randomized Controlled Trial." The Journal of Pediatrics, Vol.182, 2017

※3:Andrea L Smith, Stacy M Carter, Sally M Dunlop, Becky Freeman and Simon Chapman, "Measured, opportunistic, unexpected and naive quitting: a qualitative grounded theory study of the process of quitting from the ex-smokers’ perspective." BMC Public Health, 17:430, 2017

※4:GTAは質的研究でよく使われている手法だが、この研究者はキャシー・シャーマズ(K, Charmaz)の構成主義的GTAを用いたらしい。構成主義に対する客観主義的GTAというものがあるが、構成主義的GTAでは対象分析の解釈や意味づけの構築を目指す。データの取り扱いなどにも違いがあるが、インタビューの質問項目でも、より対象者の動機や内面に踏み込んだ問いかけをする手法だ。

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