週末にはなぜ「死亡率」が高くなるのか

 医療の世界には「週末効果(Weekend Effect)」という言葉があります。病院での診療や手術では、平日に比べると週末(土日)の死亡率のほうが高いとされます。
石田雅彦 2025.08.09
誰でも

「週末」なのか「夜間」なのか

 この「事実」は2000年代の初めごろから問題にされ始めました(※1)。日本でも「週末効果」について、同様の調査研究がいくつか行われています。

 急性心筋梗塞で入院した11万1200人の患者を対象にしたコホート研究では、週末のほうが平日よりも院内死亡率が高いという結果が出ています。この研究では、入院当日に心臓カテーテル治療(冠動脈インターベンション、PCI)が行われた割合も高く、この治療が可能な施設のある病院でも週末の院内死亡率が高かったとされています(※2)。

 では、なぜ週末になると患者の治療、とくに死亡率に悪影響を与えるのでしょうか。PCIの施行研究のように、「週末効果」は病院設備の質と無関係なのでしょうか。

 これについては、この20年間で数多くの論文が発表されていますが、その原因は依然として「不明」です。

 週末や休日に医療従事者(専門医療スタッフや看護師)が減るからだとも言われています。午前中に入院した脳卒中患者は、午後に入院した患者より1時間以内に脳のCTスキャンを受ける可能性が高いという論文もあります(※3)。

 また、社会全体が週末になると活動の質や量が変化し、それが患者の健康に影響を与えるとも考えられます。行楽に出かけるなどして事故に巻き込まれることもあるでしょう。

 さらに、平日週末ではなく「日中か夜間か」で1か月後の生存率に違いがあるという研究もあります。この研究では平日と週末・休日に差はなかったものの、昼間に入院した患者のほうが夜間に入院した患者より良好な治療結果が得られたとしています(※4)。

 夜間は救急入院が多く、この研究では夜間の患者の症状が影響している可能性が指摘されています。「日中と夜間」の研究から示唆されるように、「時間外」という区分けのほうに説得力があるという意見もありますが、複合的な要素が絡んでいるのかもしれません。

週末には重症度の高い患者が多い

 病院に労働基準監督署が調査に入るなど、医師や看護師らの労働環境が取りざたされている中、この「週末効果」がなぜ起きているのかについての考察は重要です。曜日や時間帯に関係なく医療に従事する彼らにも、週末に子どもと一緒に過ごせる時間が与えられなければなりません。

 それに関して、興味深い論文が最近発表されています。

 英国のオックスフォード大学の4つの付属病院で、2006年から2014年まで緊急入院した患者の電子記録を調査研究したものです(※5)。

 死亡率と仕事量(入院率やベッドの占有率など)の関係をモデル化したこの研究によれば、確かに「週末効果」はあるものの、その理由は患者の症状の重症度によるもので、病院の人員数やサービスの質によるものではないとしています。

 平日か週末かではなく日中か夜間かに違いがあるという研究と同様、夜間には重症度の高い患者が病院に運び込まれることが多いことが分かります。英国の研究でも、平日より週末のほうがより死亡率の高い患者集団が来ることが示唆されています。

 週末や夜間には、緊急度が高かったり専門性を要する患者が増えると言うこともできるでしょう。しかし、オックスフォード大学付属病院の患者を調べた研究に対する『LANCET』の解説は、「この種の研究では、これまであまりにも事務管理データを偏重し過ぎてきた」と指摘しています。

 医療従事者の労働環境改善は喫緊の課題ですが、多くの研究により、週末に入院患者の死亡率が高くなる「週末効果」の存在は確かに認められています。

 もちろん、救急外来や小児科など、患者や病態、診療科によっても違いがあります。日曜日の日中に救急搬送(Accident and Emergency)された患者が死亡リスクを増加させたという研究もあります。この研究によれば、救急車で運ばれる患者は土日のほうが平日よりも多く、救急車で搬送されなかった患者の死亡率が0.8%だったのに対し、救急車で搬送された患者の死亡率は5.5%でした(※6)。

 なぜ週末になると重症患者が増えるのかを含め、まだ「週末効果」の原因ははっきりしていません。時間帯や曜日など、病院ごとに入院数や患者の病態を分析し、スタッフの勤務シフトを考えることも重要でしょう。

 夜間を含めた「時間外」の診療や治療の重要性が患者の生存率と関係している以上、医療従事者の労働環境との調整は難しい課題です。

***

※1:L Schmulewitz, A Proudfoot, D Bell, ”The impact of weekends on outcome for emergency patients.” Clinical Medicine, Vol.5, No.6, 621-625, 2005

※2:T Isogai, et al., "Effect of weekend admission for acute myocardial infarction on in-hospital mortality: A retrospective cohort study." International Journal of Cardiology, January 20, Vol.179, 315-320. 2015

※3:B Bray, et al., "Weekly variation in health-care quality by day and time of admission: a nationwide, registry-based, prospective cohort study of acute stroke care." LANCET, 10, May, 2016

※4:S Koike, et al., "Effect of time and day of admission on 1-month survival and neurologically favourable 1-month survival in out-of-hospital cardiopulmonary arrest patients." Resuscitation, 82(7), 863-868, 2011

※5:S Walker, et al., "Mortality risks associated with emergency admissions during weekends and public holidays: an analysis of electronic health records." LANCET, 9, May, 2017. DOI:http : //dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(17)30782-1

※6:R Meacock, et al., "Higher mortality rates amongst emergency patients admitted to hospital at weekends reflect a lower probability of admission." SAGE Journals, 6, May, 2016

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